Thanks! 10th ANNIVERSARY  特別企画
カテゴリ:第百二十話(はるか篇-5)( 1 )

第百二十話(はるか篇-5)

何が伝わった訳でもなかろうに飯島先生はそこで一つ声を落とした。

「ここから先は本当に噂話のレベルよ。
あまり中傷とかはしたくないんだけど―」

そう切り出した彼女に拠れば、要するに原田は入り婿で結婚はいわば会社同志のそれであるようなものだったらしい。
原料の海外依存とか販路の拡大とか、そんな言葉も出てきたけれどあまりきちんと理解できなかった。

「吸収合併っていうのかな。それとも合弁なのかしら。
まあ会社同志の力関係みたいなことは私にはよくわからないけど、要するに原田グループの傘下に入れられた企業の社長の息子というのが、智和君のお父さんだった訳よ。
本体の一人娘と結婚した訳だから、やっぱり倒産して援助を仰いだとかそういうことではないんでしょうね。
原田さんとこでも最初はそれなりに期待もしていたんじゃないかとは思うの。
お嬢さんと一緒に子会社の一つになった元々の会社を任されたりしてもいたらしいから」

飯島先生はそれから、知ってる限りのことは話してあげるつもりだけど、でもひょっとして半分くらいあたしの想像も入っちゃってるかもしれないから、多少眉に唾つけて聞いてね、と重ねて念を押した。

「それでね、ところがこのお婿さんというのが、案に相違してどうやらあまり器の大きな人間じゃなかったらしいのよ。
社長の息子って立場だった訳だから小さい頃からずっと甘やかされて育ったお坊ちゃんだったんでしょうね」

けれどそこで彼女はふと気づいたのか、あ、ごめんと付け足した。
確かにつきあっている相手のことをやや悪し様にいわれた訳だが、怒りとかそういう気持ちはまるで湧いてはこなかった。
胸によぎったのはただ、ああ、という音だけだった。

はるかは大きく首を振り、続けて下さい、と返事した。

「ぼんくらとかバカ息子とか、そういう感じでもなかったらしいんだけどね。
実際最初のうちは上手くいってたみたいだし。
それでも急に会社が大きくなってどこかで勘違いしちゃったりはしてたのかもしれないわね。

合併して一年ばかりが過ぎた頃、どうも大きなポカをやったらしいの。
投資の失敗とかそういう類のことらしい。
詳しくは知らないけどね。
その時は本体からの援助でどうにか持ち応えたんだけど、きっと結構なお目玉も食らったんでしょうね。
折悪しくそんな時期にちょうどお嬢さんの方が智和君のお産でこっちに帰って来ちゃった訳よ。

そうしたら、いったい何のたがが外れちゃったのか、仕事そっちのけで会社の女の子に手をつけまくってあっというまに業績を一層落としちゃったそうなのよ。
何より評判がガタ落ちでね、訴訟沙汰になりかけたのも一件や二件ではきかないそうよ」

噂だけどね、と肩をすくめた相手に、そんなことまで伝わるんですね、と思った通りを口にした。
飯島先生は頷いて、それだけこの辺りでは有名人だということなのよ、と説明してから、でもあたしはそういう家に生まれなくて本当よかったと思うわ、とつけたしてうんうんと首を動かした。

「可哀相なのはお嬢さんよ。
会社同志の関係を切る訳にはいかないから簡単に別れる訳にも行かなかったんだろうしね。
でも本人が絶対離婚を許さないんだっていう話も一方ではあるし。
その辺はさすがにあたしではよくわからないのね。

ただこのお嬢さんというのが、血筋なのかずいぶん強い人らしくてね、結局自分で表に出て会社の建てなおしに奔走しているみたいなの。
だから息子さんのことなんかは園長にも内々に頼んだりしてたんだと思う。
あたしも気をつけてとはいわれたし。
ただあからさまに贔屓目にみるのは絶対子供によくないから、それはしないよう気をつけてるけど。

一方旦那の方はもう本宅に飼い殺しみたいな状態らしいよ。
いわゆる普通の経済活動はもう身分的にできなくて、させられるのは子供の送り迎えぐらいなんだって。
仕事につける訳にもいかないけれど、かといって表でぶらぶらされるのは家の体面が許さないんでしょうね。
智和君のお祖母ちゃんが目を光らせたりしてるのかなとも想像するけど」

そんなに大ごとになってるんですか、とはるかが相槌を打つと、飯島先生は真剣な顔で大きく首を縦に振った。

「だからね、さっき訴訟っていったでしょう?」

急激に嫌な予感が降りてきた。
続きを聞くのが怖いと思った。
けれど相手の言葉は止まってくれなかった。

「女の子の酔いを早く回す方法なんていくらでもあるらしいのよ。
本当に効くのかどうかはしらないけどさ、目薬とか、よくいうじゃない。
この男はそういう手段を使っていた訳ね。
しかもそれで上手くいかないと地位を振りかざしたりして、パワハラまがいのこともあったらしいしね。
まあ噂だけど」

―そうか。

脳裏には最初の夜のことが否応なく甦っていた。

大丈夫、顔青いよ。
そうかけられた彼女の声を遠くに聞いた。
懸命に頷きながらこらえ切れずに両手で自分の顔を覆い、どうにか声だけは殺しながらもそのままはるかはまた泣き出してしまった。

自分が寝ている相手のことをこんな形でほかの人から聞いて知るなんて。
しかもこんな内容を。

あたしってなんてバカなんだろう―。

「貴女の時も同じだった。そういうことね」

もう一度首だけを縦に動かした。

「相手を聞いた時にね、悪いけどそんなことなんじゃないかなとは思ったんだよね。
本人がそんなこと自分からいうはずもないだろうし」

顔を上げると、ほら、と相手が目の前にハンカチを差し出してくれた。
すいません、と途切れ途切れにいいながら手を伸ばして受け取った。
ちゃんと鼻もかみなさい、と飯島先生がつけ足した。
まるで園児たちに指示しているような口調だった。

[第百十九話(はるか篇-5)] [第百二十一話(はるか篇-5)]

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by takuyaasakura | 2008-06-06 13:25 | 第百二十話(はるか篇-5) | Comments(0)

その日、止まっていたはずの彼女たちの物語が再びそっと動き始めた。
by takuyaasakura
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[登場人物]

来生まこと
24歳。小学校時代に母親とともにはるかの隣家へ越して来る。以後は、はるかにとって一番近い存在となったのだけれど、高校卒業を前に家を出て現在は所在不明。

片岡はるか
24歳。教職についていた両親の一人娘で、自身は現在保育士として地元の幼稚園に勤めている。母の死後、二人暮しで衰えた父親の面倒を見ながら日々を送っている。

久住哲平
湖畔の食堂の一人息子。まこととはるかの二つ上で、二人の幼馴染み。現在は自動車修理工で故郷を離れている。



浅倉卓弥
(あさくら たくや)


1966年7月13日北海道札幌生れ。東京大学文学部卒。
2002年『四日間の奇蹟』で第一回『このミステリーがすごい!』大賞金賞を受賞し翌年デビュー。『君の名残を』、『雪の夜話』、『北緯四十三度の神話』、『ライティングデスクの向こう側』、『ビザール・ラヴ・トライアングル』など、次々と話題作を発表する気鋭の若手ベストセラー作家。



[連載小説]
*毎週月~金曜日連載*



[おことわり]

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