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カテゴリ:第百三十話(まこと篇-5)( 1 )

第百三十話(まこと篇-5)

もちろんまこと自身、そんな気持ちが自分の中に生じることを自然なことだと考えていた訳では決してなかった。
本来ならそれは異性に向けられなければならないものだ。
そんなことは誰に教わらなくとも知っていた。

だが実際にほかならぬ自分自身がその問題に直面してしまうと、はたして恋愛の対象に己とは異なる性を選ぶということを、いったい自分がいつどこでどんなきっかけがあって当然のものと受け入れていたのかがかえってよくわからなくなってしまった。
そもそもがまことは自分がそんな感情を誰かに抱くことがあろうなどとは、この頃まで正直思ってもみなかった。
おそらくは男と女のことに憧れめいたものを抱くには、自分のそばにはあまりに卑近過ぎる例しかなかったせいだろう。

なるほど五年生を過ぎた辺りから、クラスメイトたちの話題にそんな中身が増えていたことは確かだった。
けれどまことはその輪に入ることさえしていなかった。

転校当初からはるか以外とあまり打ち解けられなかったのは、結局は家族のことを訊かれたりするのが嫌だったという理由が大きかった。
だから学校にいる間に自分から誰かに近づいていくようなことはまったくといっていいほどしていなかった。
たまに休み時間に誘われて、男子たちのサッカーやバスケットボールに人数合わせで参加したりこそしてはいたけれど、せいぜいその程度だった。
中学に上がってからも状況はさほど変わらなかった。
むしろ周囲との距離は一層開いたといってよい。
その頃にはもう自分は殺人犯の娘となっていたからそれも当然といえば当然だった。

もっとも入学の時点では母はまだ容疑者の段階だったのだけれど所詮大差はなかった。
振り返ってみれば、特に問題にもならずに三年間通い続けられたことの方がかえって不思議でもあった。
それはやはりはるかの両親が引き取ってくれたおかげでもあったのに違いなかった。
ちょうどその時期から、はるかの父親は町の教育委員会の仕事にも手を貸すようになっていたようだった。

小学校時代に比べクラスの数こそ増えはしたけれど、その分中学では一クラス辺りの人数が減っていた。
入学してすぐから女の子たちはもうグループを作り、トイレも昼食も一緒に固まって過ごすようことを始めていた。
そんな様子をまことはただ遠巻きに眺めていた。

気がつけば声をかけてくる男子の数もいつのまにか減っていた。
時には自分の姿を目にした途端、集まっていた数人の会話がそこで途切れてしまうような場面にも出くわすようなこともあった。
おそらくは母や仁村のことを話題にしていたのだろうとすぐに察しはついたのだけれど、まことは気にも留めなかった。
もうそんなことはどうでもよかった。

孤立といってしまえばそうなのだけれど、いつかクラスのどの集団にも属していないことが当たり前となっていた。
周囲もそれを自明のことと受け止めていたふしがあった。
だが一人きりでいてもほかの誰にも余計な気を遣わせずに済むようになったことはむしろ自分には好都合だったかもしれなかった。
万が一にも己の抱え込んだ異質さを露呈してしまうような危険性は少ない方がよいに決まっていた。
会話の端々にどこではるかへの想いがこぼれてしまうかもわからなかった。

最初の担任に勧められるまま彼が顧問をしていた陸上部に入部し、そのまま三年間籍を置いた。
といっても過疎の懸念される町の公立の中学校の部活動であれば、ほとんど大したものではなかった。
それでも放課後の時間にすることがあるのはありがたかった。
走ることは嫌いではなかった。
練習も競技そのものも基本的に自分と向き合っていれば済むところが一番気に入っていた。
小人数だったにも関わらず部の人間関係が希薄だったことも居心地のよさに繋がっていたのだろう。

幸か不幸か一年目も二年目もはるかとはクラスが別だった。
学校では顔を合わせてもまことの方から話かけることはしないように気をつけた。
時には廊下ですれ違い声をかけてきた相手を無視するようなこともした。
最初のうちはるかは不服そうだったけれど、一度家で母のことを持ち出して説明すると、渋々ではあったがそれでも納得はしてくれた。

そのはるかは入学してすぐ軟式テニスを始めていた。
ずっと憧れていたのだという。
はるからしいなと顔には出さずに微笑みながらそんな思いを聞いたものだった。

最初はまことも誘われて一旦は多少迷いもしたのだけれど、ラケットやシューズの値段に驚き急いで首を横に振った。
日々自分が食べたり着たりしているものの分だけでも片岡の家には余計な出費であるはずだった。
そんな甘えを無自覚に重ねてしまう訳にはいかなかった。
もちろんそんな理由をはるかに口にすることはしなかった。
ただ頑なに興味ないんだと繰り返すと、ついには相手も、ならしょうがないよねと首を縦に動かした。
心底残念そうなはるかの表情に幾度も前言を撤回しそうにもなった。

―でもまことが部活やらないと、一緒に帰れる機会が少なくなるかもしれないね。

最後にはるかが付け足したその言葉がどこかに残っていたから、自分は陸上を始めたのかもしれなかった。
たぶんそうだったのだろう。

テニスコートは内庭とでもいうような場所にあり、まことたちの練習場所だったグラウンドからはちょうど校舎に隠れてしまっていた。
それでも時折部員たちが練習前のランニングで周りを一周するようなことはしばしばあった。
いつだってはるかの姿はすぐにわかった。
たとえそちらを向いていなくても空気がそれを教えてくれた。
一瞬目をやってスコートから伸びた脚にどきりとし、それからすぐ悔しさみたいなものに襲われていたたまれなくなった。

仕方なくまことはその場でクラウチングの姿勢をとると、そのまま手足の屈伸を繰り返しながら一団が行き過ぎるまで地面ばかりを見つめているようなことを続けた。
胸にはやり場のない怒りみたいなものが湧いていた。
それは正直自分でも正体のよくわからない感情だった。


[第百二十九話(まこと篇-5)] [第百三十一話(まこと篇-5)]

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by takuyaasakura | 2008-06-20 11:37 | 第百三十話(まこと篇-5) | Comments(0)

その日、止まっていたはずの彼女たちの物語が再びそっと動き始めた。
by takuyaasakura
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[登場人物]

来生まこと
24歳。小学校時代に母親とともにはるかの隣家へ越して来る。以後は、はるかにとって一番近い存在となったのだけれど、高校卒業を前に家を出て現在は所在不明。

片岡はるか
24歳。教職についていた両親の一人娘で、自身は現在保育士として地元の幼稚園に勤めている。母の死後、二人暮しで衰えた父親の面倒を見ながら日々を送っている。

久住哲平
湖畔の食堂の一人息子。まこととはるかの二つ上で、二人の幼馴染み。現在は自動車修理工で故郷を離れている。



浅倉卓弥
(あさくら たくや)


1966年7月13日北海道札幌生れ。東京大学文学部卒。
2002年『四日間の奇蹟』で第一回『このミステリーがすごい!』大賞金賞を受賞し翌年デビュー。『君の名残を』、『雪の夜話』、『北緯四十三度の神話』、『ライティングデスクの向こう側』、『ビザール・ラヴ・トライアングル』など、次々と話題作を発表する気鋭の若手ベストセラー作家。



[連載小説]
*毎週月~金曜日連載*



[おことわり]

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