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カテゴリ:第百三十二話(まこと篇-5)( 1 )

第百三十二話(まこと篇-5)

一緒に暮らしてみて初めて知ったのだが、はるかは驚くほど几帳面だった。
たとえば勉強一つにしても科目ごとに時間を決めて毎日予習復習をし、使ったものは必ず元の場所に戻した。
教科書の後ろの見返しに楷書で書かれた名前はどれもきっちり同じ大きさだった。
本棚の本も高さごとに入れる段が決まっていたし、洋服ダンスの中身もそのままブティックの陳列台に並べられそうなほど丁寧に畳まれていた。

まことの持っていた服などたかが知れていたから、ひきだしの一つを空けてもらってそこに詰め込むとそれで済んでしまった。
ただ畳むと皺になってしまう制服だけはハンガーに吊るしてクローゼットにはるかのものと並べてしまわれることになった。

実は結局あの最初にもらった制服は母の逮捕の騒ぎに紛れてなくしてしまったと嘘をついてしまっていた。
もちろん申し訳なくは感じていたのだけれど、でももう一度あれに体を包まれることだけは絶対に嫌だったのだ。
おそるおそる切り出したまことに、はるかの母はそう、と頷いただけで、すぐ代わりのもう一着を探してくれた。
少し丈が大きいかもしれないけれど大丈夫かしらと訊かれ大きく首を縦に振って答えた
この時ばかりはさすがに心底ほっとした。
ただ最初の一着をどさくさに紛れてゴミに出してしまった時だけは後ろめたさに心が軋んだ。

別ものとはいえけれどやはりはき慣れないスカートは心許なかった。
当然あの出来事が影響していない訳はなかった。
だが本当はそれ以上に、制服を着た自分の姿そのものが気に入らなくなっていたのだ。
結局まことは三年間下に短パンをはいて通した。
そうせずに動きまわることにはどうしても我慢ができなかった。
幸い陸上を始めたことがちょうどいい言い訳にもなってくれた。
それでもはるかだけは、でも制服のまま走る訳じゃないじゃないと訝しげな顔をした。
だがその彼女もそれ以外は夏場に一度か二度、よくそれで暑くないねとからかうくらいで、詳しい理由を尋ねることは結局最後までしないでくれた。
あるいは何か気づいていたのかもしれないと想像しないでもなかったが、たぶんそれも自分の取越し苦労だったのだろうと思う。

えらいなと思ったのは、どんなに疲れて帰ってきてもはるかが必ず炊事を手伝うことだった。
訊けば自分と知り合った頃にはもう習慣になっていて、母より先に帰宅してはお米を研いで待っていたのだという。
まことと遊ぶようになってからはちょっとさぼりもしたんだけどね。
そう肩をすくめて笑うはるかを見ながら、改めてなんという違いだろうと思った。

確かに自分も夕食の買い出しに一人で出かけるようなことはあった。
だが求めるものはスナック菓子かカップ麺か、せいぜい出来合いのお弁当だった。
火を使うことに関してはお湯を沸かすのと目玉焼きを作る程度がどうにかできるに過ぎない。
大体家の台所はいつも、火などつければすぐ何かに燃え移ってしまいそうな有様だった。
実際まだ子供の域を出るかどうかという年でしかないというのにはるかの料理の腕前はすでに大したものだった。
サラダも小奇麗に並べたし魚も上手に焼いた。
煮物も炒め物も手際よくこなした。
帰宅するとまず母と娘はてきぱきと献立と分担とを取り決めた。
そのまま十分に広いという訳でもないキッチンで二人が忙しなく働き始めると、三十分も過ぎないうちに食卓の上に料理が並んだ。
二人の動きは見事に息が合っていて肩や腕がぶつかることさえ稀だった。

最初こそまことも中に入って手伝おうとしたのだけれど、結局足手まといにしかなれなかった。
玉子を割れば必ず黄味をつぶしたし、お米を研げば多量の米粒を水と一緒にこぼしてしまった。
ジャガイモ一つ剥くのに五分で済まない時間がかかった。
何より三人ではどうにもキッチンが狭かった。
これはまことには一度きちんと一から教えないとだめだわね。
そんなはるかの母の言葉にも自分はひたすら恐縮するよりなかった。
こういうのは慣れだからさ、やったことないのはしょうがないよ。
傍らではるかもそんなふうに笑っていて、それがさらに気詰まりな気持ちに拍車をかけた。

最終的に調理は母娘二人が担当し、まことの役目は買い忘れや足りないものが出て来た時に買い出しにいく程度のことで落ちついた。
そうなるといつのまにか、二人が夕食の支度をしている間まことは一人で自分たちの部屋で過ごすことが習慣みたいになっていた。
用事ができればはるかが呼びに来たし、働く二人の目の前で自分一人ぼうっとしていることはたぶんどちらにとっても居心地が悪かったからそのようになったのだと思う。

実際まこと自身も部活で動いて帰ってきていた訳だから、その時間に眠気に襲われてしまうこともしばしばだった。
だがさすがに階下の二人に申し訳なくてそうすることはできなかった。
ふと気づけばそれは新しい住まいとなったこの家で自分が本当に一人きりになれる唯一の時間だった。
やがてまことはこのわずかな間を利用してはるかには決して見られたくない本を読むことを始めた。
何よりもはるかに向いてしまった気持ちの正体が知りたかった。


[第百三十一話(まこと篇-5)] [第百三十三話(まこと篇-5)]

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by takuyaasakura | 2008-06-24 17:16 | 第百三十二話(まこと篇-5) | Comments(0)

その日、止まっていたはずの彼女たちの物語が再びそっと動き始めた。
by takuyaasakura
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[登場人物]

来生まこと
24歳。小学校時代に母親とともにはるかの隣家へ越して来る。以後は、はるかにとって一番近い存在となったのだけれど、高校卒業を前に家を出て現在は所在不明。

片岡はるか
24歳。教職についていた両親の一人娘で、自身は現在保育士として地元の幼稚園に勤めている。母の死後、二人暮しで衰えた父親の面倒を見ながら日々を送っている。

久住哲平
湖畔の食堂の一人息子。まこととはるかの二つ上で、二人の幼馴染み。現在は自動車修理工で故郷を離れている。



浅倉卓弥
(あさくら たくや)


1966年7月13日北海道札幌生れ。東京大学文学部卒。
2002年『四日間の奇蹟』で第一回『このミステリーがすごい!』大賞金賞を受賞し翌年デビュー。『君の名残を』、『雪の夜話』、『北緯四十三度の神話』、『ライティングデスクの向こう側』、『ビザール・ラヴ・トライアングル』など、次々と話題作を発表する気鋭の若手ベストセラー作家。



[連載小説]
*毎週月~金曜日連載*



[おことわり]

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