Thanks! 10th ANNIVERSARY  特別企画
カテゴリ:第五十八話(はるか篇-3)( 1 )

第五十八話(はるか篇-3)

日曜日は久し振りの晴天になった。
本当なら洗濯物を片付けてしまいたいくらいの陽気だったけれど、迷った末はるかは結局でかけることにした。
それでも拭い難くまとわりつく後ろめたさのせいか、体は緩慢にしか動いてくれなかった。

たとえば約束の場所に自分が現れなかったとしても、相手はおそらく後で文句をいうようなこともしないのだろう。
きっと何食わぬ顔で適当に時間を潰して帰るに違いない。
そしてまたある程度の時間を置いてからもう一度誘いのメールが入るのだ。

―やはり会いたいと思っているのはあたしの方なんだろうか。

トーストで簡単に朝食を済ませ父の食事を準備した。
歯を磨き顔を洗ってそれから念入りに化粧を整えた。
そうやって手を動かしている間中も、そんなことばかりがどうにも頭を離れてくれなかった。

車を出して坂道を降り、湖に突き当たるT字路をいつもとは反対の方向に曲る。
湖畔をほぼ半周しようかというところで道路が国道と交差する。
そこではるかはウィンカーを出して、久し振りの陽光にきらきらと喜んでいる湖面に背を向けた。

二十分ばかりまっすぐに走ると車線が増えて視界が広がった。
両脇にはファミリーレストランやホーム・センターなどの店舗がちらほらと並び始める。
隣の市に近づいた証拠だった。
はるかはその気紛れに連なった建物たちの中でも一際派手な看板を出しているパチンコ店に車を入れた。

ビルの建坪の三倍はあろうかという広い駐車場は、まだ十時になったばかりだというのにもうすっかり混んでいた。
日曜日なのにみんなほかにすることはないのかなと、この場所にきた時には必ず浮かぶそんな考えがよぎって消える。
だけど自分だって結局は似たようなものかもしれないと気づき、はるかは一人眉根を寄せて苦笑した。

駐車する場所を探して雑然と並んだ一列を通り越し敷地の端で右に折れた。
入口から遠い一画にはまだ十分に空きがある。
これならいつもの場所も大丈夫だろう。
そう思いながらバックミラーを確かめる。
後続車のいないことに片隅でほっとした。

目当ての一番奥のスペースにマーチを後ろから滑り込ませた。
もう敷地の端っこで右手にはブロック塀が聳え立ち、上に伸びた背の低いグリーンの金網越しに雑木林が頃合よくかぶさってくれている。
この場所なら黄色の車体も多少は目立たずに済みそうに思えたので、ここに来る時にはたいていこの一画がはるかの定位置だった。

エンジンを切ると再びため息が漏れ出した。

―あたし、何やってるんだろう。

そう思った時だった。
バッグの中で携帯が震えメールの着信を知らせた。
タイトルはない。
高揚とも諦めともつかぬ気持ちではるかはメッセージを開けた。

今日は出てこられたみたいだな。
いつもの辺りにいる。

多くはない文字を素早く読み取りフロントガラスの向こうに目を凝らした。
ちょうど反対の隅に見慣れたセフィーロが駐まっている。
これもいつものことだった。

軽く頬を膨らませ呼吸を整えると、はるかはキーを抜いて車を降りた。
けれどすぐ動くことはせず、まず用意していた帽子を目深にかぶりその場所から周囲を見渡した。

まだちらほらと駐車場に入って来る車があった。
目を凝らしそのどれにも見覚えのないことを確かめる。
こんな場所で園長や同僚に会うとも思えなかったけれど、いずれにせよ注意深く行動するに越したことはなかった。

車を降りた人々はみな脇目も振らずに店舗の中に入っていく。
自動ドアが開閉するたびに雷のような踏み切りのような、旋律はあるけれど音楽と呼ぶのはどうにも気の進まない雑然とした音がこぼれ出す。

店内では大音量でかけられているらしくはるかの居場所までも十分に届いてくる。
しわがれた男の声が乗っているけれど何を喋っているのかまではわからない。
独特の節回しはむしろはるかには耳障りだった。

客たちの中には年配と呼ぶにはほど遠いような夫婦連れの姿も見受けられた。
小さな子供がいてもおかしくない感じである。
ふとはるかには今彼らが降りてきた車の中が気にかかる。
数年前のことだったが、真夏に脱水症状を起こした子供が救急車で運ばれたのはどうやらこの店でのできごとだったらしい。
そんな噂の記憶が甦っては行き過ぎた。

ようやく車が途切れたところではるかは愛車から離れた。
歩きながら背後に向けて、悪戯なんかされてないで無事にここで待っていてねと胸の中で祈るように呟いた。

店舗を遠巻きに歩いて目当ての車にたどり着く。
また周囲を確かめて、それからフロントガラスを二つノックする。
反応はない。
はるかの方も当然のようにそのまま前から回り込んで細い体を助手席へと滑り込ませた。

ドアを閉め一旦置いた腰を持ち上げてスカートの裾を整えた。
そのつかの間に車はもう滑り出している。

「いつものところでかまわないだろう?」

サングラスをかけた男の目がバックミラー越しにこちらを見ていた。
慌ててはるかは笑顔を作った。

「でも原田さん、折角こんなに晴れてるんだし、もしよかったら少しドライブでも連れてってくれませんか。
ずっと雨だったし父の面倒ばかりみてたから、あたしどこか爽やかな気分になれるところに行きたい気もちょっとしてるんですけど」

思い切って朝からずっと準備していたその台詞を口にしてみた。
けれどすぐ鏡の中の男はあからさまに眉をひそめた。
それもやはり繰り返し想像していた通りのことだった。

「申し訳ないけれど三時頃には戻っていたい。
だからあまり時間がないんだ」


[第五十七話(まこと篇-2)] [第五十九話(まこと篇-2)]

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by takuyaasakura | 2008-02-27 12:00 | 第五十八話(はるか篇-3) | Comments(0)

その日、止まっていたはずの彼女たちの物語が再びそっと動き始めた。
by takuyaasakura
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[登場人物]

来生まこと
24歳。小学校時代に母親とともにはるかの隣家へ越して来る。以後は、はるかにとって一番近い存在となったのだけれど、高校卒業を前に家を出て現在は所在不明。

片岡はるか
24歳。教職についていた両親の一人娘で、自身は現在保育士として地元の幼稚園に勤めている。母の死後、二人暮しで衰えた父親の面倒を見ながら日々を送っている。

久住哲平
湖畔の食堂の一人息子。まこととはるかの二つ上で、二人の幼馴染み。現在は自動車修理工で故郷を離れている。



浅倉卓弥
(あさくら たくや)


1966年7月13日北海道札幌生れ。東京大学文学部卒。
2002年『四日間の奇蹟』で第一回『このミステリーがすごい!』大賞金賞を受賞し翌年デビュー。『君の名残を』、『雪の夜話』、『北緯四十三度の神話』、『ライティングデスクの向こう側』、『ビザール・ラヴ・トライアングル』など、次々と話題作を発表する気鋭の若手ベストセラー作家。



[連載小説]
*毎週月~金曜日連載*



[おことわり]

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