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第百七十九話(まこと篇-6)

「ごめん、あたしが悪かったよ」

拗ねていたはるかが意外そうな様子で眉を持ち上げた。
だからさ、不機嫌に見えたら謝るってば。
まことがそう重ねると、はるかはやがて静かに強張った頬を崩していった。
ところがその場所につねと違う赤みが差していることに気づいたのはその時だった。
怪訝に思い見つめると、はるかの肩が一つ大きく縦に揺れた。

「あんた、なんだか顔色悪いよ」

え? と眉を動かしたはるかは、そんなことないよと返事して、それから自分の手で両肩を抱き、今日はずいぶん冷えるね、と繕うように口にした。
確かに雨音は窓の外で相変わらずだった。
だが決してさほど気温が下がっているという訳でもなかった。
心なしかはるかの目が潤んで見えて、まことは腕を伸ばし相手の額に手を当てた。

「ちょっとはるか、あんたすごい熱じゃん」

「え、そうかな。でもそうかも」

「具合悪かったの? いつから」

「そんなの、でもたぶん、今急にだと思う。きっと大したことないよ」

首を振りながら立ち上がろうとしたはるかは、けれどすぐ足元をふらつかせて座卓の上に手をついてそのままそこに腰を落としてしまった。
あれ、と自分でも怪訝な顔をして、それからまことに向きなおり照れ臭そうな笑みを浮かべると、なんだか膝に力入んないや、と弱々しく口にした。

ちょっと待ってなといいおいて階下に降り、体温計を手に部屋へと戻った。
そのつかのまにはるかは前に突っ伏して肩で息をしていた。
ほら、と両脇に手を差し込んで体を起こすとさっきよりも熱が上がっているようだった。
「だめだよ、これ。
薬持ってきてあげるからとにかく横になって熱測んな」

まことがいうと今度ははるかも素直に頷いた。

「もしかしたら、髪ぬらしたままうろついてたのがよくなかったのかもしんない」

続いた声は先刻までとうって変わって切れ切れだった。
心なしか吐息も荒くなっている。
とにかくまずはるかをベッドに横たえて脇に体温計を挟んでから、まことはもう一度居間へ降りた。
薬箱から市販の風邪薬を探し出し、それから思いついてタオルをぬらして絞り、コップの水と一緒に二階へ運んだ。

戻ってみるとはるかは向こう側を向き体をまるめて震えていた。
首だけを起こして水を含ませ、それから薬を飲ませてあげた。
それだけのことさえもう辛そうだった。
体温計を確かめてみると、案の定九度を超えていた。

「とにかく寝なよ。たぶんただの風邪だとは思うけど」

本当はなんの根拠もなかったのだけれど、はるかを安心させたくてそう口にした。
また向こうを向いてしまったはるかは、どうにか首だけを動かして頷いてみせた。
それを確かめてまことは灯りを小さくし、それから毛布をひっぱってきてベッドの傍らに自分の居場所を作った。
腕を伸ばし彼女の髪をなでてみた。
だが相手は何の反応も返してくれはしなかった。

急にはるかの具合が悪くなったことがまるで自分のせいのように思えていた。
何か助けたいのにいきなり背を向けられてしまったことが、なんだかほかのすべてに繋がる比喩みたいに思われていいようもなく切なかった。
そこでぬらしたタオルのことを思い出しはるかの額に乗せようとした。
すると、まるで気持ちが通じたみたいに相手が寝返りを打って上を向いた。
ただそれだけのことが無性に嬉しかった。
そんな些細な仕草に自分の心がこれほど揺れることを今更ながら不思議に思い、やはりはるかは自分にとって特別なんだと考えた。
それは理由などいらない種類の感情なのだと、自分にいい聞かせるように胸の中で言葉にもした。


[第百七十八話(まこと篇-6)] [第百八十話(まこと篇-6)]

by takuyaasakura | 2008-08-29 13:14 | 第百七十九話(まこと篇-6) | Comments(0)
第百七十八話(まこと篇-6)

その視線を受け止めていることは難しかった。
まことは逃げるように目を逸らした。
はるかの考えるのはせいぜいキス程度だったかという安心感はほとんどなかったし、その先を想像していた自分を恥ずかしく思う気持ちもさほど起きなかった。
脳裏にはほかにうごめくものが多過ぎた。
哲平の告白のこと、それから思い出したくもない記憶。
そしていつまで経っても繰り返し甦ることをやめてくれないみだらな映像。
目の前にはそんなものたちとは裏腹な邪気のない顔がかすかに頬を染めていた。
自分の一番大切なものだった。
なのにどうしてこの相手とよりによってこんな話をしていなくてはならないのだろう。
間違っていると思った。
はるかが何か勘違いしているんだと思った。
でもどこがどう違うのかが皆目わからなかった。

「でもあたしたちまだ十六じゃん。
そんなに焦ることないんじゃないの?」

どうにかそれだけ搾り出した。
けれど耳に返った自分の言葉はやはり間抜けなものにしか聞こえなかった。
はるかが不服げに眉を寄せた。

「いわれなくても自分でもわかってるわよ。
確かにあたしは少し焦ってる。
でもね、もうすぐ哲平ちゃんとは今みたいに簡単には会えなくなっちゃうんだよ。
そりゃあ、あたしと哲平ちゃんとが、幾ら幼馴染だっていってもそれ以上では全然ないし、ましてや人並みにいう付き合っているとかそういう関係じゃ全然ないよ。
だけど、だからといってそういうことしちゃいけない訳でもないでしょう。
まことは知らないでしょうけど、京香たちとかもうとっくなんだもの」

はるかが名前を出したのは学校で彼女がよく一緒にいる同級生の一人だった。
確かにまことはその彼女のことは顔程度しか知らなかったし、興味もなかった。

「あんたはあの娘たちと違うでしょう」

それに今あんたが哲平に抱いている気持ちだってきっとそういうのとは違うんだ。
ましてやあんたのいうクラスメートたちがやってることなんて。
そう考えた時だった。
ようやくまことは、自分が夕食の席でのはるかの母の言葉の何に苛立ったのかに思い至った。
もし彼女のいう通り、愛しているということがそれほど穏やかな形で存在しうるものなのだと、そう認めてしまえば自分がはるかに抱いているものが打ち消されてしまいかねない。
あの時自分をかき乱していたのはおそらくそんな不安だったのに違いなかった。

「何が違うの? 
まことなんて京香のこと、ほとんど知りもしないじゃない」

反駁したはるかの声は、怒っているというほどではないが、どことなく苛立たしげだった。
頬がかすかに膨らんでいた。

「大体なんでそんなに急に不機嫌になるのよ。
ただちょっと協力してほしいっていってるだけじゃない。
それに、そもそもが所詮は全部仮定の話でしかないんだから、笑って、わかったわかったっていってくれればそれでよかったのに。
もうそんなに試合も見に行く機会もないだろうしさ、哲平ちゃんだってきっと忙しくなっちゃってあんまり家にきたりもしなくなるかもしれないし」

まことが答えずにいると、はるかが横を向きながら続けた。

「いいじゃない、その程度の夢くらいみてドキドキしたって」

貴女はあたしの気持ちを知らないから―。
だからそんなに残酷になれるんだよ。
決して声に出すことのできない言葉が頭の中で渦を巻いた。

叶うならはるかに伝えたかった。
あたしが貴女を思う気持ちは今貴女の周りに見つかるどんな想いとも違うのだと。
顔と名前しか知らないその女がどこの誰ともわからない相手に向けているものとも、あるいは貴女の御両親の間にあるものとも、それどころか貴女自身が哲平に対して抱いているものと比べても、それよりもきっともっともっとー。

けれどそこでその先に続けるべき言葉を見失った。
もっとどうだというのだろう? 
そもそもあたしは一体全体、自分の何を誰のどこにあるどの部分と比べようとしていたのだろう。
見えないものをつかもうとする言葉だけをとらえて、いや言葉にすらされていないものまで並べてみて、それを何でどうやって測ろうとしているのだろう。
その背後にあるものが驕りに似たものなのだと、その時初めて気がついた。
でも、それでもやはり、はるかが哲平に抱いているものと自分のはるかへのそれとは一緒にはできない気がした。
自分自身にとっての意味だけでは決してなく、もっと根本的なところからその二つは異なっているのだと思った。
それだけは疑いなく信じられた。

でもそれをはるかに伝えられる言葉など自分にはないことだけは最早明らかだった。
叶うなら今この胸の中にあるすべてを、たとえば心臓を切り開くなりして何とかして取り出して、それをそのままはるかに手渡してしまいたかった。
だがそんなことはできるはずもなかった。
諦めに似た気持ちでまことはゆっくりと首を左右に振った。


[第百七十七話(まこと篇-6)] [第百七十九話(まこと篇-6)]

by takuyaasakura | 2008-08-28 10:59 | 第百七十八話(まこと篇-6) | Comments(0)
第百七十七話(まこと篇-6)

「実はね、ずっと考えてることがあるんだ」

口調に少しだけたじろいだ。
改まっていったいなあに、と笑ってみせようとしたのだけれど上手くできた自信もなかった。
はるかはそのまま黙ってこちらを凝視した。
切り出してしまったことを悔やんでいるような顔だった。
一旦俯いた後、ようやく彼女が口を開いた。

「今度哲平ちゃんが来たら、この部屋で、二人きりにしてほしい」

思わず唇を噛んでいた。
だが気がつけば、少し前からなんとなくそんな話題になりそうな予感はあったようにも思われた。

「本当はさ、ずっとさっきから、明日哲平ちゃんこないかなって、あたしそんなことばっかり考えてるんだ。
我ながら不謹慎だなとは思うんだけどさ」

いいながらはるかはまことの向かいに座りなおしそのまま前に乗り出してきた。
屈託のない目が恨めしかった。

「だってさ、親が両方いないなんて家じゃあ滅多にないじゃない? 
まあでも、こっちから呼ぶ訳にもいかないんだけどさ。
でも万が一本当にそんなことが起きてくれたら、それってすごいチャンスかなとか思って、だったらまことには先に一言頼んどかないとまずいかなって気もして、だからいってるのに」

答えずにまことはじっとはるかを見返した。
すると今度は相手の方が気圧されたように体を起こし、胸の前で手を合わせ、そんな怖い顔しないでよ、と俯いた。

「チャンスって、何の?」

耳に返った自分の声が強張っていた。
どこかで聞き覚えのある響きにも思えた。

「まこと、わかってて訊いてるでしょう」

答えたはるかが肩をすくめる。
いつもは好ましいその仕草が、けれどこの時は何故か苛立たしさを誘った。
まことはさらに相手をねめつけた。

「知らないわよ、そんなの」

はるかが拗ねたように唇を尖らせる。

「いわないとダメ? できれば察して欲しいんだけど」

すでにまことの頭の中には絡み合う男女の形の幻があった。
母がずっと自分に見せつけ続けた映像だった。
その二つの顔がともすればはるかと哲平とにすり替わってしまいそうになるのを、まことは懸命に押しとどめていた。

「でもそういうのはお互いちゃんとさ、気持ちとか、確かめてからするもんじゃないの。
だいたいはるか、哲平にまだ何もいってないんでしょう?」

あたし、何をばかなこといっているんだろう。
そう思いながら口にした。
するとはるかはかすかに頬をふくらませ、そんなのいわれなくてもわかってるわよ、と呟いて重たげな息を吐き出した。

「だからさ、そういうシチュエーションになったらちゃんというわよ。
いいたいなとはずっと思ってるのよ」

はるかはそこで指を組むと、その手を手前から前に返して小さく伸びのような仕草をみせた。

「だけどさ、あたしだって怖いのよ。
あたしもちらほら聞いてはいるの。
部の先輩に一人ね、哲平ちゃんにアタックして玉砕した人がいるよの。
その時には、どうやらほかに誰か意中の人がいるんじゃないかっていう感じだったんだって。
でも哲平ちゃんが誰かときちんとつきあってるっていう噂は聞かないから、よほど上手くやってるのか、それとも哲平ちゃんの片想いなのかっていう感じなのかなと思うんだ。
そりゃあ、その相手があたしだったらいうことないのにな、くらいもちょっとは考えたけど、どうやらそんな気配はなさそうだしね」

そのままはるかは自分の指先をじっと見つめて先を続けた。

「それでもさ、最初のキスくらいは、本当に好きな相手としたいな、とか、やっぱりそんなことはどうしたって考えるじゃない?」

そういったはるかが上目遣いになって自分を見た。


[第百七十六話(まこと篇-6)] [第百七十八話(まこと篇-6)]

by takuyaasakura | 2008-08-27 12:58 | 第百七十七話(まこと篇-6) | Comments(0)
第百七十六話(まこと篇-6)

映画が終わってもしばらくどちらも口を開かなかった。
画面がニュースに変わったのを機にまことはリモコンに手を伸ばし、順番にチャンネルを変えてみた。
けれど面白そうな番組は見つからなかった。
つまんないねと口にすると、はるかも黙って頷いた。
寝よっか、とまことがいうと、はるかはもう一度首を縦に動かしかけ、でも一階に誰もいなくなっちゃって大丈夫かな、と首を傾げた。
窓とかちゃんと鍵さえ見ておけば、今夜だけだしそんなに神経ピリピリさせなくても平気だよ、と答えはしたのだけれど、はるかはなお心細げだった。
改めて、この娘は一人きりで夜を過ごしたことさえないのだな、と妙に感心するような気持ちになった。

手分けして改めて家中の戸締りを確認した。
映画を見ている間は気づかなかったのだけれど、表はいつのまにか結構な降りになってしまっている様子だった。
明日が休日であることも互いに頭にあったから、部屋に引き上げてもすぐには眠ろうという感じにならなかった。
部屋の中央の座卓に向かいあい、しばらく他愛ないおしゃべりをした。
合間に今日亡くなったという人の話を訊いてもみたが、はるかの方も、たぶんお母さんたちのお仲人をやってくれた人だと思うけど、といいながらそれほどの確信はなさそうだった。
話題を探してまことがさっきの映画を持ち出しかけると、はるかは、止めてよ、と本気で怒った顔をした。

「ねえ、訊いてもいい?」

つかのま言葉が途切れた後、おずおずとはるかが切り出した。
顔を上げると視線がまともにぶつかって一瞬だけはっとした。
はるかの方もさらに少しだけ躊躇ってから先を続けた。

「なんでさ、まことお夕飯の時、あんなにお母さんに噛みついたの?」

え、と眉をひそめてしばらく考え、ようやくはるかのいう中身に思い当たった。
確か月がどうのこうのという話だった。
訃報が届いてからの落ち着かなさにすっかりそんなことは忘れていた。
思い出せた今になっても、なんだかそんな会話が今日のこの同じ日の出来事だったとは上手く思えなかった。

「あたしそんな、噛みついたりしたかな―」

居心地の悪さに戸惑いながら口に出すと向かいのはるかが大きく首を縦に動かした。

「うん。全然納得いかないって感じだった」

最初はたぶん、漱石が月がきれいだという言葉を愛しているの訳語として採用したとかいった話だった。
それがそのまま、じゃあそういう会話がどういった場面でなら成立するのかというようなことが話題になったのだったと思う。

「だってさー」

とりあえずは言葉を継ぎながらもう一度その時のやりとりを自分できちんとたどりなおそうとした。
だが片隅には同時に気の進まない自分がいたことも本当だった。
そのせいか、聞いたはずのはるかの母の言葉さえ上手く思い出せなかった。
はたして自分は何をどう彼女に返したのだろう。
彼女の考えのどこにそれほどの違和感を感じたのだろう。
自問を重ねたが答えはまるで見つからなかった。
ふと見ると、言葉に詰まった自分に気づいたのか、はるかが申し訳なさそうな顔を浮かべていた。

「ごめん、ひょっとしてあたし嫌なこと聞いたかな?」

「全然、ぜんぜんそんなことない。はるか全然悪くない」

慌てて首を横に振った。
とにかく何かいわなければとまことは焦った。

「やっぱりそんなの有り得ないと思ったんじゃないかな。
月は、どうひっくり返してもそういうのとはあんまり関係ないよ」

自分が話の焦点を微妙にずらしたことはわかっていた。
だがはるかは気づかないふうだった。

「まあね、そもそもお父さんのいうとおり、私たち日本人は、愛してるなんてそんなに口にしないもんね」

そこでふとはるかは小鼻を膨らませ、組んだ手に顎を乗せると、でもさ、と続けた。

「もしそれが、なんていうの? 
それこそ昔の合言葉みたいにしてさ、お互いだけに通じるっていう約束があるんだったら、愛してるの代わりにそういうのは、きっと照れ臭くなくていいかもしれないね」

「月がきれいってこと?」

「そう」

訊き返すとはるかが大きく頷いた。
そこでどちらからともなく窓の方へと顔を向けた。
締め切ったカーテンの向こう側では雨音がまだ続いていた。
さっきよりも激しい降りになっているようだった。

「でも今日は絶対月は見えないね」

そう呟いたはるかの鼻が小さな音を立てた。
少し寒くなったかなと口にして立ち上がったはるかは、そのまま自分の洋服ダンスに歩き、中から夏用の薄いカーディガンを取り出して羽織った。
そこでこちらに振り向いたはるかが自分をじっと見下ろした。
いつになく真剣な顔つきだった。
ふと背筋を伸ばさなければならないような心地もした。
だがその奥底にあるものは、あのいつもの不吉な予感に似た手触りの何かだった。
まことは気取られぬよう口の中だけで唾を一つ飲み込んだ。


[第百七十五話(まこと篇-6)] [第百七十七話(まこと篇-6)]

by takuyaasakura | 2008-08-26 11:30 | 第百七十六話(まこと篇-6) | Comments(0)
第百七十五話(まこと篇-6)

電話が鳴ったのは夜の八時頃だった。
片岡の家ではもうすっかり夕食も済み、まことは一人部屋にいた。
はるかは先にお風呂を使っていた。

はるかの母が出たらしく、呼び出し音はすぐに止まった。
それでもなんとなく気になって、そろそろはるかが出てくるかもしれないとか、この部屋に自分だけでいるとまた変な気分になりそうだからとか、とにかく自分に理由をつけてまことはそっと階下に降りた。
居間でははるかの母が受話器を左手に、はい、はい、と繰り返しながら右手でメモを取っていた。
口調にどことなく緊迫した気配があった。

ドアのところに立ち止まって彼女の後ろ姿を眺めていると、どうしたの? と右側から声がかかった。
目をやると廊下の奥にはるかの姿があった。
パジャマに着替えてはいたけれどバスタオルがまだ肩にかけられていて、髪もぬれたままだった。

わからない、とまことが肩をすくめてみせるとはるかはそのまま進んできて、自分の顔のちょうど真下にもぐりこむような感じで腰をかがめ居間の中を覗き込んだ。
洗い髪の匂いがほんのりと立ち昇っていた。
そこで電話の切れる音がした。
振り向いてすぐ自分たちに気づいたはるかの母は、ちょっと待っててね、と手を上げてまず奥の書斎へと向かった。
いわれたとおり居間のソファで並んで待っていると、五分も経たないうちに彼女が戻ってきた。
気配が何だか慌しかった。

「急なんだけど、竹本先生が亡くなったそうなの。
これからお父さんとお通夜にいくわ」

初めて耳にした名前に隣をうかがうと、けれどはるかも怪訝そうな顔をしていた。
はるかの母が一瞬唇をすぼめてから続けた。

「はるかには前に話したことあるかと思うけど、竹本さんは私とお父さんが同じ学校にいた時代の校長先生で、私たちには特別な恩のある方なのよ」

ああ、とはるかが今度は頷いた。
誰? と訊こうかとも思ったけれど、後で十分だと思いなおした。

「もうずいぶんなお歳だったから仕方のないことなのだけれど、でもできればもう一度お会いしておきたかったわ。
それで、お父さんとも相談したんだけれど、お通夜には終わりまで出ることにする。
状況によっては帰ってこられるかもしれないけれど、そのまま明日の朝が告別式だから、ちょっとはっきりとはわからないわ」

言葉を切った彼女が自分たち二人の顔を見比べた。

「だから申し訳ないけど、今夜は二人でお留守番ね。
戸締りはしていくから火の元だけ気をつけて。
明日の食事は、はるか、任せて大丈夫ね」

ぎこちなくはるかが頷いた。
ふとみるとはるかはいつのまにソファのクッションを胸にかかえて抱きしめていた。
なるほど考えてみれば、片岡の両親がそろって家を空けることは、少なくともまことが一緒に暮らすようになって以来初めてのことだった。
仕事の都合でどちらかが留守をする時は必ず片方が家にいた。
この家はそういう家庭だった。

忙しく喪服に着替えた二人を玄関まで見送った。
夕方までは晴れていたはずなのに急に天気が変わったのか、折悪しく雨が降り始めていた。
門まで行くという娘を、鍵締めちゃうからいいわよ、と母親が制し、二人がじゃあ留守を頼むねと出ていった。

車の発進音が遠ざかってしまうと家には自分たちだけが残されていた。
居間に戻り時計を確かめるとまだ九時にもなっていなかった。
まことが、じゃああたしまだだったから、お風呂使わせてもらっちゃうね、というと、はるかはかすかに顔をしかめて、なるべく早く上がってね、とぶっきら棒に口にした。
その口調に一旦は、あれ、とも思ったのだけれど、すぐ、多少なりとも不安に感じていることを自分には気取られたくないのだなと察しがついて、まことは内心はるからしいやと苦笑した。

お湯を使っている間にはるかが洗面台でドライヤーを使う音を聞いた。
ずいぶん乾いちゃっていただろうから風邪など引かないといいなとちらりと考えた。
小さなくしゃみが聞こえた気がして声をかけようかとも思ったのだけれど、この日は何故か自分が裸であることがいつもより気になってできなかった。
本当に二人きりなんだということが、もうこの時から心のどこかに作用していたかもしれなかった。

お風呂から出てみるとはるかは居間でテレビを見ていた。
よせばいいのに、宇宙船の中で乗組員が一人ひとり消えていくといったストーリーの洋画だった。
それ、先にいくとすごいの出てくるよ、とまことがいうと、はるかは、ええ? 本当に? といいながらもチャンネルを変えようとはしなかった。

結局二人で最後までその映画を見た。
終わり間際に電話が鳴って、当然ながらはるかが取った。
自分たちの無事を確認する母親からのものだったらしく、手短に会話を終わらせ戻ってきたはるかは、やっぱり帰ってこないって、と小さく呟いた。

その瞬間だった。
派手な効果音が出し抜けに響いてテレビの画面一杯にグロテスクな異星人の姿が大写しになった。
悲鳴をあげてはるかがしがみついてきた。
下着をつけていない胸の感触が二の腕に柔らかくぶつかって、自分の鼓動が早まるのがわかった。
ほらほらと宥めながら体のうちに変なものが疼くのを感じ、決してはるかに気取られてはいけないと繰り返し自戒していた。


[第百七十四話(まこと篇-6)] [第百七十六話(まこと篇-6)]

by takuyaasakura | 2008-08-25 10:44 | 第百七十五話(まこと篇-6) | Comments(0)
第百七十四話(まこと篇-6)

はるかのいうとおりだと思った。

本当は今のまことは母のことが辛い訳ではなかった。
そのはずだった。
だからはるかは自分のことを思いやろうとして、実際はまるで検討違いのことを考えていたことになる。
同じように、はるかに抱きしめられたことを自分が、嫌どころかむしろ嬉しく、いやそんな言葉さえ超えたような心地で身を委ねていたことも、たぶんあれだけの仕草では全然伝わっていないのに違いない。

あたしたちは何だか遠い。
こんなに近くにいるのに、本当にわかりあうことさえできない。
そう思うとすっかり膝の力が抜けた。

―でもひょっとすると、あたしは今本当に母のことで傷ついているのだろうか。

不意にそんな言葉がよぎった。
でもそれ以上そんなことは考えたくなくて、まことは首を振り立ち上がった。
大切な人たちが階下で自分を待ってくれているはずだった。

哲平の最後の夏は、結局県大会の準決勝敗退という結果に終わった。
それでも甲子園常連の強豪を相手に延長十二回を一人で投げきった彼は、ローカルながら新聞のスポーツ面の見出しに書かれさえしていた。
はるかによれば、プロはともかく、すでに幾つかの社会人チームから誘いを受けてもいるらしいとのことだった。

もちろんまことも感心はしたけれど、それよりも意外に思ったのは、何度も会っていながら哲平が、自分の前では進路のことなどおくびにも出さなかったことだった。
あの夜坂道で少し思い上がっているんじゃないかと失礼な批判をぶつけたことを思い出し、多少は気にしてくれていたのだなと少しだけ相手のことを見なおしもした。

試合観戦がなくなってしまうと哲平と顔を合わせる機会は、自ずと彼が家を訪れた時に限られることになった。
はるかは残念そうだったがまことはむしろほっとしていた。
家の中であればずっとはるかに張りついていればそれでよかった。
時が経つにつれ三人がそれぞれに微妙な緊張をごまかすことになれてしまったことも、また一方で本当だった。

哲平はいずれにせよ春になれば町を出るに違いない。
そうすればやがてあの夜のことも笑い話に変わってくれるはずだ。
あるいはお互いにすっかり忘れてしまうことだって、この決して先ないともいえないのではないだろうか。

そんないびつな期待を胸に抱えながらまことは日々を過ごしていた。
だがその同じ哲平の不在という想像は、一方のはるかの胸には当然ながらまるで違う影を落としていたのに違いなかった。

まこと自身は昔から環境の変化には慣れていた。
ここへ落ち着く前には幾度も引越しを繰り返していたし、母の逮捕の時には、たとえ肉親でもずっと必ずそばにいてくれる訳ではないと痛烈に思い知りもしていた。
今自分を守ってくれている片岡の人たちにしてもそれは同じことだった。
いつまでも変わらないものなどあるはずはないと、漠然とながら心のどこかでは常にそう感じていた。

けれどはるかはそうではなかった。
生まれた時から同じ家に住み、友達の増減こそあれ基本的にはさほど広くはない世界に生きていた。
そしていろいろな意味で真っ当な両親にしっかりと守られ続けていた。あ

どこがどうという訳ではないけれど、はるかはいつだって危なっかしかった。
そんな彼女の脆弱さみたいな部分が、最初に出会った時からまことのどこかをひきつけて止まないでいることもまた本当のことだった。

哲平の存在もやはり、おそらくは恋愛感情を別にしても、彼女にとっては十分特別なものであるに違いなかった。
その彼が町を離れるかもしれないという想像は、まことが推し量っていた以上にはるかの胸に重くのしかかっていたのだろう。

だがそんなすべてをまことが理解したのはあの家を出てしまってからだった。
いや、今だって本当にあの時のはるかの気持ちがきちんとわかっている訳では決してない。
ただ自分の把握できそうな言葉に置き換えてみているだけなのだろう。
その距離をゼロになるまで埋めてみたいという気持ちが、あるいは実は自分がはるかに抱いているものの正体なのではないかと、時にそんなふうに思うこともあった。


[第百七十三話(まこと篇-6)] [第百七十五話(まこと篇-6)]

by takuyaasakura | 2008-08-22 14:49 | 第百七十四話(まこと篇-6) | Comments(0)
第百七十三話(まこと篇-6)

何でもない、全然平気。
慌ててそう口にすると、なら急いで下りてきて、もう支度できるから、とはるかが肩をすくめて背を向けかけた。

「あのさ―」

口が勝手に動いてはるかを呼び止めていた。
照れを隠すつもりも半分はあったのだけれど、できるだけ早く話しておきたいことがあったのも本当だった。

「さっきのさ、うちの母親のことだから」

思い切ってそういうと、はるかは一瞬わからないという顔を見せたが、すぐに、ああ、と首を縦に動かした。

「別にあたしは貴女に隠すつもりはないし、それにもう新聞にだって出たし―」

それに、それに。
もっと何か言葉を重ねたかったのに、接続詞以外は何も浮かんできてくれなかった。
いつのまにか勝手に部屋を彷徨っていた視線をどうにかはるかの上に戻すと、彼女は困っているのか喜んでいるのかわからないような顔をしていた。

それからはるかは小首を傾げて口を開いた。

「気にしてないっていおうかなとも思ったんだけど、でも本当はちょっと気になってた。
でもまあ、母さんがあたしに聞かせる必要ないって思うのも、いわれてみればわかるわ」

そこで唇を尖らせたはるかは、何を思ったのか手を自分の鼻の下に運ぶと、そのまま再び近づいてきた。
え、と思うまもなくまことはそっと抱きしめられていた。

ごめんね、わかんないんだ。
耳元ではるかが囁いた。

まことが今どんなふうに辛いのか。
それは本当はあたしにはきっと絶対想像さえできないことなのよ。
でもだからって、それを考えてみようともしなくていいってことには全然ならないよね。
なのにあたしったら、今の今まで自分のことばっかり考えてたよ。

はるかはたぶんそんな言葉を続けていた。
でも、声は耳に届くのに、頭の中に入ってきたそれらの音はまるで意味を成そうともしてくれなかった。

だめだよ、はるか。
今こんなことされたらあたし―。

頬に当たるはるかの髪がこそばゆかった。
鼻をくすぐる匂いはベッドの残り香とは比べものにならないほどに生々しかった。
鼓動が高まっているのが自分でもはっきりとわかった。
まことはそのすべてを必死になって押し殺そうとした。
なのに脳裏には、そのまま体を入れ替えて今自分が突っ伏していたその場所にはるかを押し倒してしまう映像が、まるで現実のようにありありと浮かんで見えていた。

まことは身を硬くした。
そうしなければ体が勝手に動き、今浮かんでいる通りの行動をとってしまいそうだった。

肩をつかまれ、そのまま押し戻されるようにして体をはがされた。
安堵とも名残惜しさともつかない気持ちが急激に満ち、まことは呆然として目の前のはるかをじっと見つめた。

「ごめん、変なことして。嫌だった?」

はるかは不安そうな顔をしていた。
慌てて首を横に振った。
全然そんなことないと、なんとかそれを伝えたくて、駄々をこねる子供のように繰り返し大げさに同じことをした。
何それ、とようやくはるかが笑ってくれて、どうにか少しだけほっとした。

いつのまに自分も照れくさそうに頬を染めていたはるかが、じゃあ早く降りてきてね、と手を上げて出ていった。
後姿を見送って、そのまま閉まってしまったドアをぼんやりと眺めた。


[第百七十二話(まこと篇-6)] [第百七十四話(まこと篇-6)]

by takuyaasakura | 2008-08-21 12:48 | 第百七十三話(まこと篇-6) | Comments(0)
第百七十二話(まこと篇-6)

「だけど、真実って、いったいなんなのかしらね」

そう呟いたはるかの母はかすかに眉を曲げていた。
まことがその言葉の意味を測りかね反応できずにいるうちに、ドアが開きはるかが顔を出した。
ちょうどはるかの母がテーブルに手をついて立ち上がりかけたところだった。
はしゃいだ顔をしていたはるかはすぐ怪訝そうな様子になって自分たちの顔を交互に見比べた

「二人ともどうしたの? 何だか難しい顔しちゃって」

どう答えようかと決めあぐねるうち、はるかの母が先に、なんでもないわ、と応じていた。
本当はまたはるかに隠し事ができてしまう気がしてちゃんとしゃべっておきたかったのだけれど、ついタイミングを逸してしまった。
当のはるかも何か感じとったのだろう、一瞬だけまことに不可解な視線をぶつけると、そう、と元気なく呟いた。

さあ、じゃあそろそろご飯の支度でもしましょうか、と明るい声を繕った母親が口にして、そのまま母と娘はキッチンに並んだ。
何か手伝いたいようにも感じたけれど、同時に何故だか本当はそこには自分のいる場所なんて存在しないように思えてもいた。
まことは座ったまま首だけを向け黙って二人を見ていた。

ふとまたはるかと目が合った。

その瞬間、理由もなく今自分たちが同じような思いをかかえてしまっていることを知った。
自分の中に淀んでいる正体のわからない感情と同じ色彩が、はるかの奥底に見えたような気がした。

―やっぱりあたしには、はるかの思いがわかるんだ。

視線を外しながらそう考えた。
でもその手応えは自分がずっと欲しがっていた一体感とは程遠いものだった。
そもそも自分のどの感情とはるかのどんな思いとが共鳴したのかすら想像がつかなかったし、それがなんであれ決して喜ばしいものではない気がしていた。

やがてお湯の沸く気配が漂ってきたのを機にまことは一旦部屋へと引っ込んだ。
母のことを考えるのは嫌だったのだけれど、さすがにこの時ばかりは一人になるといろいろなことが次から次へと勝手に浮かんできて止まらなかった。

振り切りたくて何かきっかけになってくれそうなものはないかと部屋を見回した。
ふと視線がベッドに止まった。
さっきまではるかが少し横になっていたらしく、下の段の掛け布が斜めにめくれていた。

気がつくと自分はベッドの傍らで絨毯の上に膝を折っていた。
右手がひおとりでに伸びてシーツの上をさすっていた。
もう残っているはずもないのに、そこにぼんやりとはるかのぬくもりがあるような気がしていた。

そのまま両手をつき真白いシーツに頬を埋めた。
そんなことはしたこともなければこの時までしたいと思ったことさえなかった。
なのにどうにも止められなかった。

はるかの匂いだと思った。
それがすべてを頭から追い出してくれるようだった。

鼻をつけ、深く息を吸い込んだ。
脳裏にはいつかこの家の裏口で風呂上りのはるかに縋りついた時の記憶が甦っていた。
他人の体温や皮膚の手触りが本当は心地よいものだと知ったのはたぶんあの時が初めてだった。
思い出の中の親密さにそっと身を委ねているうちに、いつか左手が下腹のさらに下の場所に伸び、下着の上からその部分をさすっていた。
内側に湿った熱が湧き、それが次第に自分を支配していった。

どれほどそうしていただろう。階下に物音がしてまことは慌てて体を起こした。
まずスカートの裾を確かめ、それからシーツを見下ろしてその上に残った自分の顔の形を急いで手でかき消した。
ちょうどその時、ドアが開いた。

「まこと、もうできるから手伝いに来て」

声と一緒に入ってきたはるかは、すぐに自分の顔を見て怪訝そうに眉を寄せた。
決まり悪さでまことが返事もできずにいると、はるかはエプロンで手を拭いながら寄ってきて、まことがなんだろうと訝るうちにそっと額に手を当ててきた。
顔がひどく近くて思わず息を呑んでいた。

けれど手はすぐに離れてしまった。

まことは陶然としていた。
まるで今自分が反芻していた光景を、誰かが自分の望みを聞き入れて、少し違った形で目の前に再現してくれたように思えたからだ。
まだ体の芯に疼いたままの興奮とあいまって身の力がすっかり抜けていくようだった。

「顔赤いからどうしたのかと思ったけど、熱はないみたいね」

はるかの言葉に今度は恥ずかしさがこみ上げた。
そこでようやく頬がすっかり火照っていたことを自覚し、その理由に思い当たったそれこそ全身から火が吹き出そうになった。


[第百七十一話(まこと篇-6)] [第百七十三話(まこと篇-6)]

by takuyaasakura | 2008-08-20 13:01 | 第百七十二話(まこと篇-6) | Comments(0)
第百七十一話(まこと篇-6)

ふと気がつくと、隣にいるにもかかわらず、今はるかは何を思っているのだろうと訝ることが多くなっていた。
子供の頃から、どちらかといえば単純なはるかの考えならすぐに察しがついたし、何よりもはるかは思っていることがすぐ顔に出る性質だった。

けれどいつのまに、彼女の顔の上に自分には上手く意味のつかめない表情ができあがっていることが増えていた。
笑っている瞳の奥に憂いとも悲しみともつかない影が絶えず潜んでいるような気がし始めていた。

いつかまこと自身も焦りに似たものを覚えるようになっていた。

初めて出会った頃や、あるいはまだ自分が毎日のようにオーバーオールに身を包んだ格好で彼女と戯れていた頃は、自分たちはもっと一つだったように思われていた。
それも本当は錯覚に過ぎないとわかっていながら、日々何かが失われてしまっているような感覚にたまならい怯えを抱いていた。

母の裁判が結審したのは確かそんな時期だった。

法廷での態度も裁判官の心証をかなり悪くしたらしく、単独での犯行と断定され、判決は十五年の実刑だった。
殺人という罪状に対しそれが軽いのか重いのか、まことにはよくわからなかったし興味もなかった。

加えれば母の罪が確定したからといって日々にはもう大した変化も起きはしなかった。
確かに学校で顔も知らない誰かが遠くから自分を指差しているように思えることが多少増える程度のことはあったけれど、それも一月も経たないうちにほぼ収まっていた

母の身柄は自分たちの町からはずいぶんと離れた刑務所に収監されることになった。
本人の希望だったのだという。
新聞に出た以上のことは、はるかの母がどこから仕入れてきて、まこと一人をつかまえてそっと教えてくれた。

貴女のお母さんは、確かに決して誉められた人ではなかったけれど、でも本当はそこまでのことはしてないんじゃないかしら。
私はそう思っているの。
違うのかしらね。

はるかの不在を見計らって食卓で向かいあった時、はるかの母にそう訊かれた。
迷った末首を縦に動かして、それからすぐ、でももうそんなことはどうでもいいんです、あの人は自分の好きなように勝手に決めて、したいようにしてるんですから、と口にした。

「それにあたしもう、自分はこの家の娘だと思ってますから」

少しだけ照れながら小声でそう付け足すと、はるかの母が穏やかに笑って、ありがとうと答えてくれた。

それから彼女は静かに首を傾げると、テーブルの上で組んでいた手を小さく動かして伸びをするような仕草を見せた。

「もし私たちの想像が正しいとして、あの人はじゃあ、男を失うよりも自分の娘を殺人者の子にすることを選んだということになるのよね」

そこで深く息を吐いた相手の目には、同情とも慈しみともつかない表情が浮いた。
けれどそれは決して嫌な感じのするものではなかった。

「きついわね」

ため息の続きみたいなその一言にもう一度首を縦に動かして、不意にこぼれそうになった涙に気づいて慌ててこらえた。
自分ではとっくに平気になったつもりだったのに、毎日のように自分の回りに流れる冷たい空気がどこからか甦ってきて一番柔らかい場所を締め付けていた。

はるかの母が、ごめんなさいね、と腕を伸ばして頭をなでてくれた。
首を横に振ったけれど声を出すことができなかった。
それから彼女は一つ下唇を噛むと、でもそんな気持ちは私には絶対わからないのね、と独りごとのように呟いた。

「だってあれはバカですから。
バカの考えることなんて、あたしたち普通の人間にはわからなくて当たり前です」

鼻声を懸命にこらえながらまことがいうと、はるかの母は顔をしかめて、気持ちはわかるけど、でもどんな時でも自分の親のことはそんなふうにいうもんじゃないわよ、とたしなめた。
だけど、と反駁しかけたまことを制し、はるかの母は、それでもよ、と諭すように頷いた。

それから彼女は少しだけ視線をずらして先を続けた。

「貴女には辛いでしょうけれど、お母さんは控訴もしないつもりらしいから、事件の犯人があの人であることは法的にはもうどうにも揺るがないみたいなの。
男の方は結局起訴も見送られてしまったらしいわ。
前後してすぐ町からも姿を消してしまったらしい。
今頃どこでどうしているのか知らないけど、まあ真っ当に生きてはいないんでしょうね」

その時ふと、向かいに座った相手の顔に悔しさとも怒りともつかぬものが一瞬だけよぎったのに気づいた。
気になったがその意味を問うことはしなかった。


[第百七十話(まこと篇-6)] [第百七十二話(まこと篇-6)]

by takuyaasakura | 2008-08-19 10:37 | 第百七十一話(まこと篇-6) | Comments(2)
第百七十話(まこと篇-6)

「もういってくれないかな、頼むから」

「だけどさ―」

「いってってば。何度もいわせないで」

思いきりきつく聞こえるように吐き出すと、ようやく哲平が、わかったよ、と背を向けてバイクのところへ戻っていった。
まことも最後まで見届けることはせず坂道を降り始めた。
背中にエンジンのスタート音を聞いた。

ところが、てっきり家に向かうものと思っていたバイクは引き返してきて横に並んだ。
また哲平が、あのさ、といったが今度こそ聞こえない振りをした。
だが相手はかまわずに続けた。

「今日じゃなくていいよ。
でも少しでいいから考えてみてくれ。
確かにどっかで思い上がってたかもしれないけどよ、でも俺は昔からそうだったんだ。
お前の方を見てた。
お前を見てたんだ。
そっちこそ、気づいてなかったなんていうなよな」

それだけいうと哲平はまことがもう一度横目でねめつけるのも待たずに、じゃあ今日は退散するわ、と手を上げてエンジンをふかし、まことを追い越して坂道の下に消えていった。

T字路の信号で左に折れたテールランプを見送ると、まことは一人重いため息を吐いた。
一瞬自分が何をしに出てきたかまで忘れそうになり、慌ててコンビニに走って買い物を済ませた。
急いで戻らないともうずいぶんと時間が経ってしまっていた。

案の定、そろそろ家に着こうかというところで向こうから手を振る人影を見つけた。
はるかに違いなかった。
白っぽい服が宵闇に浮き上がって見えて、まことは思わず目を細めていた。
だが焦るよりもむしろほっとする方が大きかった。
何故彼女の姿はこういう時にこんなふうに自分に作用するのだろうかとまた不思議にも思った。

「遅い、何やってるの。
あたしもお母さんも心配しちゃったわよ」

立ち止まったはるかが腰に手を当ててかわいらしく睨みつけてきた。
ごめんごめん、と片手で拝み、それから、はい、と買い物の入ったレジ袋を差し出した。
ありがとう、と受け取ったはるかは中を確かめ、うんと笑みになって頷いてから、すぐ真顔に戻ってこちらを見た。

「本当に大丈夫? 何かあったんじゃないよね」

はるかの瞳には平素はあまり見せない探るような色がよぎっていた。
どうしようかと一瞬迷いはしたけれど、やはり哲平と会ったことは話せないと思いなおした。

「ううん、思わず雑誌見ちゃっただけ。
ごめんね、心配かけて」

そういってごまかすと、ふうんと頬を膨らませたはるかが、そうなんだ、と一人ごとのように呟いて、それから、さあ、帰るわよと背を向けた。

今度の嘘は痛かった。
何よりもはるかに対して自分の気持ち以外の秘密を持ってしまったことがたまらなかった。

だからといって今から前言を翻す訳にはもういかなかった。
そんな場所に自分を追い込んだ哲平がやはり憎かった。
彼の最後の捨て台詞を思い出し、考えるまでもないわ、と一人胸のうちで嘯いた。
前をいくはるかの背中がまぶしかった。

思い起こしてみれば奇妙な三角形だった。
あの時期、三者三様の想いがそれぞれに受け止めてもらえる場所を見つけられず、微妙にすれ違いながらあやうく宙に浮いていた。

どの方向からの力にも耐えられる一番強い図形が、最小限の数の辺しか持たない三角形なのだとどこかで習った記憶があった。

―だが自分たちの描いていた形はひどく脆かった。

それきり哲平が同じ話を蒸し返すことはしばらくなかった。
もっともまことの方も、彼と会う時は必ずはるかといるように気をつけていたことも本当だった。
そもそもがあんな場所で出くわしてしまう方が滅多にないことだったし、当時は通う学校も違っていた。
彼が家を訪れてきた場合以外は、一緒になるのは試合に絡んだ機会だけだった。

応援にはるかを一人で行かせてしまうことも考えはしたのだけれど、かえって変に思われそうな気がしてできなかった。
二人で出かけるのを当然のことと考えているはるかが自分のために準備した食事を無駄にさせてしまうことにも気が引けた。

球場に足を運んでしまえば、タイミングによっては観客席で哲平と三人での昼食となるような場面もあった。
だがそういう食事はなんだかひどく味気なかった。

話すのはもっぱらはるかだったし、まことは食べ物を入れる以外にはほとんど口を開かなかった。
そんな役割分担は家での食事と変わらないはずなのに、哲平がいるだけで空気がどこか違っていた。
まことはといえば時折こちらを盗み見る彼の視線ばかりが気になったし、はるかもそんな自分たちの歪んだ雰囲気を多少は気にしているようだった。

一度だけはるかに、哲平と何かあったのかとはっきり訊かれたこともあった。
もちろんやはり否定するしかできなかった。
だがそんな嘘を重ねてしまえば、今度はもし万が一哲平の口からはるかに何かが伝わって、自分がずっと本当のことを話していなかったとばれてしまったらどうなるのだろうといったことまでが気になりだした。


[第百六十九話(まこと篇-6)] [第百七十一話(まこと篇-6)]

by takuyaasakura | 2008-08-18 12:33 | 第百七十話(まこと篇-6) | Comments(1)

その日、止まっていたはずの彼女たちの物語が再びそっと動き始めた。
by takuyaasakura
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第二百三十八話(終章)
[登場人物]

来生まこと
24歳。小学校時代に母親とともにはるかの隣家へ越して来る。以後は、はるかにとって一番近い存在となったのだけれど、高校卒業を前に家を出て現在は所在不明。

片岡はるか
24歳。教職についていた両親の一人娘で、自身は現在保育士として地元の幼稚園に勤めている。母の死後、二人暮しで衰えた父親の面倒を見ながら日々を送っている。

久住哲平
湖畔の食堂の一人息子。まこととはるかの二つ上で、二人の幼馴染み。現在は自動車修理工で故郷を離れている。



浅倉卓弥
(あさくら たくや)


1966年7月13日北海道札幌生れ。東京大学文学部卒。
2002年『四日間の奇蹟』で第一回『このミステリーがすごい!』大賞金賞を受賞し翌年デビュー。『君の名残を』、『雪の夜話』、『北緯四十三度の神話』、『ライティングデスクの向こう側』、『ビザール・ラヴ・トライアングル』など、次々と話題作を発表する気鋭の若手ベストセラー作家。



[連載小説]
*毎週月~金曜日連載*



[おことわり]

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